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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【497】

降るような星空の下、鬼が一人、琴を奏でる。
山の木々にその葉を染めるよう、促す音色が風に乗る。

いざ、燃えるように身を染めよ。
散る前のひと時、あでやかにその身に錦をまとえ。
すべてが白く塗りつぶされる前に、みなの心に紅き火を灯せ。

音色は山々を渡り、そして絢爛たる秋が来る。


お題: 「星空」、「琴」、「鬼」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578


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【496】

 それは初めて聞く音で、根付兎はびくりと震えた。
 耳をつんざき、体全体がびりびりと痺れ、自然と涙が浮かぶ。
 空は暗く日が当たらないせいで、自分しかいない部屋はいつもよりも冷たく不気味に感じる。
 何処に隠れようと音は真っ直ぐに自分を追いかけてきて、ひょこひょこと逃げては物陰で震えた。
 何かすごいものが襲ってきて、食べられてしまうのかもしれない。
 頭をよぎった考えに、ぎゅっと目を閉じる。
 その時。
 勢いよく障子が開いて、誰かが駆け込んできた。
「ああ、やっぱり!」
 少女の声に見上げると、心配そうなまなざしがこちらを見下ろしていた。
 犬神とともに暮らしている少女だというのは知っているが、こんなに近くで見るのは初めてだった。
 昼間は小さな根付の兎の形なのでこの部屋からあまりでないし、少女はまだ子供で夜は早くに寝てしまう。
 同じ家に居ても、会う機会があまりなかった。
「今、瑠璃丸が留守なんだよ。雷怖いんじゃないかと思って」
 そっと伸ばされた手が自分を包み込む。
 逃げようにも体が強張り言うことをきかなかったので仕方なく捕まえられたが、両手の手のひらに包まれると、恐ろしい音が少し弱くなって、兎は気持ちが緩むのを感じた。
「凛音も雷嫌いなんだよ。でもね、この前瑠璃丸がこれを買ってきてくれたの」
 すとん、と少女は座り込むと、兎を膝の上にのせた。
 そして、そばに赤い生地に蝶や花を描いた布で作られた小さなお手玉を置く。
 そこに犬神の匂いが残っているのを感じ取って、兎はお手玉に身を寄せた。
 ちりん、と、中に入っている鈴が可愛らしい音をたてる。
「ね、怖くなくなるでしょ?お守りなんだよ。二つあるから、一つあげる」
 驚いて少女を見上げると、優しい笑顔があった。
 しゃべられないのがもどかしく、兎は精一杯の感謝の気持ちをこめて少女の手に頭を摺り寄せた。
「うん。一緒に我慢しようね」
 時折お手玉を揺らして鈴をちりんちりんと鳴らしながら、雷が去るまで兎は少女の膝から降りようとはしなかった。


お題:「雷」、「お守り」、「描く」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578

瑠璃丸は犬神の名前です。
付喪神の根付兎を拾って面倒をみています。
凛音は瑠璃丸と一緒に住んでいますが(他に猫又と妖狐もいますが)、今まで二人はあまり接触がありませんでした。
兎は昼間は瑠璃丸の部屋から出ないのと、きちんと整理された瑠璃丸の部屋に凛音はあまり入らないので。
凛音が少しお姉さんぶってます。
これを期に仲良くなって、帰ってきた瑠璃丸が遊んでいる二人を見て少し驚いたりするといいな。

以前の根付兎
Twitter Novel 7/31 【215】
Twitter Novel 8/28 【349】
Twitter Novel 9/9 【413】
Twitter Novel 9/12 【435】
Twitter Novel 9/17 【464】
Twitter Novel 9/20 【472】
掌編未満 9/28 【474】
根付兎 彼岸花

凛音が持っていたお手玉の話
雷鳴とどろく

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【495】

「頑張って」
この言葉が無責任だと思うかい?

遠くから言葉だけかけているみたい?
自分は何もせず、相手にだけ努力を強いているみたい?

それはきっと、心が疲れていて、その言葉にこめられた気持ちに気付いていないだけ。

それは何も出来ない無力感の中で、せめて届けと気持ちを載せて贈る呪文だから。

「心配しているよ」
「無理しないでね」
「君を信じてる」
他にもたくさん言いたいことを全部こめて口にする言葉だから。

だって、どうでもいい相手にエールなんて贈らないよね。
だから、大事に受け止めて、返したい。

「頑張る。君も、頑張って」


お題:「頑張る」
「頑張って」といわれるのは好きです。
震災以降、言っちゃいけない言葉みたいに扱われちゃったけど、気持ちがうれしいのです。
明けない夜はない。
止まない雨はない。
冬だって、いつか春になるのです。


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【494】

 古い一軒家の縁側に、青年と少女が座り込んでいた。
「あったかいお茶がおいしいねえ」
 猫舌だから正確にはぬるいお茶を一口飲んで、猫又の翡翠はにっこりと笑う。
「そうだねえ」
 縁側で行儀悪く足をぶらつかせて、凛音は答える。
 律儀に返事をしたはいいものの、少女の口の中には団子が残っていて「ほうはへえ」としか聞こえず、翡翠の笑顔が苦笑に変わった。
 縁側から眺める庭に咲く花は朝顔から菊に変わり、じりじりと焦げ付くようだった陽射しは日向ぼっこに調度いい温かさで二人を包む。
 湯飲みから手のひらに伝わる温もりの優しさが嬉しい季節。
「でも、この時間になるともう肌寒いか」
 黄昏時に差し掛かると、風は一気に温度を下げる。
 返事の代わりに、凛音がくしゅんとくしゃみをした。
「さ、部屋に入ろう?風邪ひいたら遊びに連れてってやんないよ」
「はーい」
 湯飲みと皿を持ち、立ち上がる。凛音が背の高い翡翠を見上げた。
「翡翠、明日も日向ぼっこできるかな?」
「大丈夫じゃないかな。ほら、明日も晴れそうだよ」
 翡翠が指差した西の空は、真っ赤に染まっている。
「明日も日向ぼっこしようね」
「お団子はもうないよ」
「凛音を食いしん坊みたいに言わないで!」
「あれ?違った?」
「翡翠の意地悪!」
「ごめんごめん」
 翡翠が凛音の頭を撫でてなだめる。
「明日もきっといい天気だよ。栗を拾いに行こうか」
「うん!」
 凛音の笑顔が暖かい太陽をそのまま体に閉じ込めたようで、翡翠はまぶしそうに目を細めた。
 本当は、明日が晴れていても雨でも構わない。
 この笑顔があれば、雨の日でもいい日になるのだ。


お題: 「黄昏」、「湯呑み」、「菊」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
温かいお茶が美味しい季節になってきました。
ついでに栗のお菓子も美味しい季節です。
栗きんとん、モンブラン~♪


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【493】

 紅い蝶々がひらひらと
 海へ向かって飛んでいく
 波の向こうの外国(とつくに)へ
 そんなはかない羽だけで
 たどり着けるというのだろうか
 引き止めるように伸ばした指は
 空(くう)をさまよい行き場をなくし
 浜辺で一人立ちすくむ
 
お題: 「浜辺」、「紅」、「蝶」で創作しましょう。 http://shindanmaker.com/138578
なんとなく、「浜辺」と「蝶」という言葉に、旅をする蝶の話を思い出した。
紅くはなかったと思うけど。
紅い蝶が夕焼け空に向かってひらひらと飛んでいって、ずっと見送りたいのに、空に溶けるようにふっと見えなくなってしまう。
そんな空想。


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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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