宵月楼-しょうげつろう-
あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。
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「羊の目ってホントに三日月の形なんだね」
触れ合い動物園と言われる一角で、彼女は変なことに感心しながらウサギの耳をくすぐった。
動物を引き寄せる特異体質。
柔らかな日を浴びて、彼女はさながらソロモン王のように動物たちに囲まれて微笑んでいた。
お題:
「昼の動物園」で登場人物が「くすぐる」、「月」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【77】
芝生に座り込んだ俺の肩に、彼女の頭が預けられる。
すぐに寝入ってしまった彼女を見ていると、俺まで眠気が襲ってきた。
穏やかすぎて気が緩み、気づけば本性の犬の姿に戻っていた俺の頭を、目覚めた彼女は驚きもせず優しく抱き寄せ、「お昼寝、気持ちよかったね」と囁いた。
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胡蝶のような着物の裾が ひらりはらりと夜に舞う
かんざししゃらりと金粉を降らせ 華の香りが身を包む
妖しく笑んで届かぬ距離で 白きその手が手招きしても
童のように追うてはならぬ 気付けば戻れぬ闇の中
【73】
雨粒がひとつ、ふたつ。
ひどくなるわけでもなく、緩慢にみっつ、よっつ。
どうせなら前も見えぬほど激しく降ればいいのに。
止めようもない僕の涙がわからぬほど。
だけど、雨雲がそんな願いを聞くわけもなく、涙のような雫を僕の頬にいつつ、むっつ。
空を仰いで受け止め続けた午後。
【74】
平日昼間のゲームセンターだなんて、人も少ないし好きにしてくれって言ってるようなもんじゃない?
そう言っても彼女はきょとんとして、お菓子を取るゲームなんかいじって、僕を見上げて「チョコレートが欲しいな」だって。
はいはい、仰せのままに。お姫様
お題:
「昼のゲームセンター」で登場人物が「好きにする」、「チョコレート」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【75】
開いた玉手箱は、ふたをして、紐をかけて、穴を掘って埋めて、なかったことに。
たぶん、埋めた場所にしょっちゅう足を取られて転ぶんだけど。
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例えば自分の存在が、中間から正の方向で認識されていればいいけど、負の方向だった場合の可能性が目の前をちらついて、一歩が踏み出せない。
自ら地雷を踏みたくはない過剰な自己防衛と現実逃避。
言い訳と言う名の壁を自分の周りに作っては、正当化を上塗りする生産性のない心。
【69】
映画館は平日の昼間のせいか、僕以外誰もいなかった。
名前も知らない映画だったけど、スクリーンに映った人魚の瞳が寂しそうに僕を見た瞬間、僕には彼女しか見えなくなった。
差しのべられた手をとると、冷たい水が僕を包む。
そして、客席には誰も居なくなった。
お題:
「昼の映画館」で登場人物が「寂しがる」、「水」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【70】
永遠に続くと思われた足踏みが、小さいけど確実に前に進む一歩に変わる。
手を引いてくれた。
背中を押してくれた。
大丈夫だと言ってくれた。
手を伸ばしたいと思わせてくれた。
こんなにいくつもの声が、僕を励ましてくれるなんて。
ありがとう。
やっと僕は一歩踏み出した。
【71】
相手に対する自分の価値とか、ほんとはどうでもいいんだ。
ただ、あの人と友達でいたかったんだ。
でも、その優しさをいつもうまく受け取れなかったのは、自分だから。
ごめんなさいとか、ありがとうとか、渦巻いてる言葉が体の中で一杯になるから、今だけ涙で流していいかな・・・。
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【64】
揺れる。揺れる。
一瞬ごとにくるくる変わる。
止まれと願っても聞き届けられず、揺れる心に体が呻く。
誰か、止めて。手を差し伸べて。
他力本願を嘲笑うように、心はさらに大きく振れた。
【65】
家の近くの歩道橋で、夕方、あいつが帰って来るのを待ち伏せる。
「なあ、西瓜余ってるから食べてけよ」
「もしかしてずっと待ってた?」
「そんなわけねえだろ!」
嘘をついたって、ばれてるよって笑われた。
追い付けない一年が悔しい。
あいつは中学生。
俺は小六。
お題:
「夕方の階段」で登場人物が「嘘をつく」、「西瓜」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【66】
早朝の海辺を歩くと波の音だけが体を包んで、目を伏せればゆっくりと海の底へ沈んでいくような感覚に囚われる。
歌声に誘われて溺れた男達が、人魚のその鱗も美しい下半身を枕にして横たわるのが見えた。
髪をすくたおやかな指に、彼らは至福を感じるだろうか。
お題:
「早朝の海辺」で登場人物が「溺れる」、「枕」という単語を使ったお話を考えて下さい。
【67】
星が降る夜に君を迎えにいくよ。
この街でそんなの無理だって?
本当にそう思う?
みんなが必要最小限の電気を残してあとは消す夜があるかもしれないよ。
もしそんな夜があったら、君が見たこともないほどの星を君と一緒に見たいんだ。
だから、その時は僕にさらわれてくれますか?
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「主様は化け猫でありんすか」
花魁が大して驚かなかったんで、逆に僕の方が肩透かしを食った気がした。
「それだけ?」
少し不満げに言うと、彼女は綺麗に笑んだ。
「苦界では、あやかしよりも人間の方がよほど恐ろしゅうございますよ」
戦場に居るような壮絶さを持った笑みだった。
【63】
「何を探しているの?雨が降りそうだよ」
薄暗くなってきた神社の境内に一人残って一生懸命何かを探してる君に声をかけた。
「お守り、落としたの」
泣きそうな君の顔に胸が痛んだ。
ごめんね。それ、僕が拾ったんだ。
君に話しかけたくて、すぐには返せなかったんだ。
お題:
「夕方の神社」で登場人物が「探す」、「雨」という単語を使ったお話を考えて下さい。
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