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宵月楼-しょうげつろう-

あやかし風味。ミステリー皆無。恋愛要素多少混入。

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【805】

 朝焼けが空を染める。
 少しまだ肌寒い空気を吸い込んで、妖狐の琥珀は空を見上げた。
 朝焼けは天気が悪くなる前兆と言うが、その茜色は不吉と言うには美しく、どこか物悲しいが暗くはなく、思わず笑みを浮かべるほどには琥珀はその色が気に入っていた。
 むしろ、雨になる前に一時目を楽しませてくれる粋が、いいではないか。
「おはようございやす」
 低い声に目を戻すと、強面の豆腐売りが天秤棒を担いで歩いてきた。二の腕に麒麟の彫り物をした大柄な男だが、真面目な商売の姿勢と豆腐の味が良いことで、ここいらではそこそこ人気がある。
 琥珀の家は村から少し外れているが、同居している猫又の翡翠が豆腐はこの男からしか買わぬと決めているからか、わざわざ足を向けてくれるのだ。
「よう、早ぇな」
「へえ、豆腐売りは朝が勝負なんで。旦那こそ、今日は早起きじゃあないですか」
「たまにはな」
 長い髪を気にもせず頭をかいて、琥珀はあくびをした。
「もしかして、寝てねえんで?」
「・・・今から寝るだけだ」
「深酒もほどほどにしなせえよ。いつもの、翡翠さんに渡しておくんなさい」
「おう」
 厨から桶を出して豆腐を受け取ると、銭を払う。
 豆腐売りはにこりともせずに頭を下げると村の方へ歩いていった。
「・・・ほんと愛想がねえ野郎だな」
 手に豆腐を入れた桶を持ってそれを見送ると、琥珀はもう一度あくびをしてきびすを返した。
「さて、寝るか」
 朝焼けはもう薄れて、朝日が射し始めていた。


お題:「朝焼け」、「琥珀」、「麒麟」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578
琥珀さん、徹夜明けw


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【804】

 仙人というと、もっとじいさんだと思っていた。
 俺は目の前で茶を飲む女の子を見つめてそんなことを考えていた。
「何を考えておるか、当ててやろうか?」
 伏せていた目を片方だけ開いてちろりと俺を見ると、彼女はそんなことを言った。
「どうせじいさんじゃないとか考えておったのであろう?外見などあてにはならぬぞ。我らは好きな外見をとれるし、時と場合に応じて変えるでの」
「そうですか。女の子の姿になんの利点が?」
「ああ、これは趣味じゃ」
 そうですか。
 年を食っていると、どうにも人をからかう悪い癖がつくらしい。
 俺は気を取り直して姿勢を正した。
「で、仙人が俺に何のようですか」
「それじゃ」
 仙人は湯飲みを置くと、懐から筆を取り出した。よく手入れされているが、ずいぶんと古いもののようだ。柄の部分には何やら紙が貼られている。
「これを預かってくれぬか?」
「筆ですか?」
「筆じゃ」
「どうして俺が?」
 貼られているのは札だろう。となれば、危ないものが封じられているか、これ自体が危ないものなのだ。
 だが俺はといえば、普通の筆屋でしかない。仙人の訪問を受けることも初めてなら、こんないわくありげな品を押し付けられるのも初めてだ。
「ある者から勧められての。筆は筆屋に預けるが目立たぬと。また、お前の気性ならば、粗末に扱うこともないとな」
「誰ですか、そんなことを言いやがったのは」
 ぼやく俺にふふっと笑って、仙人は立ち上がった。
「ほんの数日でよい。できるだけ早う取りに来る」
「はあ」
「それとな」
「はい?」
「札は剥がすなよ。これは雷を呼ぶ性を持つ」
 何だって?
 問い直そうとしたときには、仙人の姿は消えていた。
「冗談じゃねえぞ、おい」
 俺の声に答えるように、筆がかたりと音を立てた。


お題:「雷」、「筆」、「仙人」で創作しましょう。 #jidaiodai http://shindanmaker.com/138578

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【799】

夜桜に誘われて宴を催すは、人もあやかしも同じこと。永い時を生きるが故にそのはかなさは胸をうち、小さな花弁に潔さを見いだす。春を告げる美しさに敬意を表し、久方に会う友と酒を酌み交わす。幾年も変わらぬ春。それでもそれは待ちわびた春。


【800】

あやかしすらも魅了して、無邪気な桜、空に舞う。優しき色に忍ばせた恋の狂気のその欠片、誰の視線も惹き付けて、そっと心に滑り込む。桜吹雪に染まったならば、止まらぬ気持ちが刃となりて、桜はさらに艶やかに紅を濃くして咲き誇る。


【801】

僕が君の世界に無理矢理踏み込んだから、君の世界は壊れてしまった。わかっていたのにそうしたのは、君を僕だけのものにしたかったから。でも世界が壊れてしまったから、君は僕の手の中で粉々に崩れて消えてしまった。後悔しても、もう君は戻ってこない。


【802】

はるだからいろんなものをすててしまおうか。ぼくのおくびょうやみれんがましさやしがみついているつながりやきみへのおもいなんかを。きっとてばなしたとたんにこうかいするんだろうけれど。


【803】

そろそろ君の中から僕の存在が消えたみたいだから、僕の中の君もしまってしまわないといけないんだと、少しの心の痛みとともにしまう箱なんか作り出してみたけど、ふと手を止めて、本当は捨ててしまわなきゃいけないのにねって自分の馬鹿さ加減に苦笑する、光のどけき春の日の午後。


春は浮かれる気持ちと物悲しさが両方似合う気がして。


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【797】 夜鳴鶯

夜鳴鶯が鳴くという森に迷い込む。その美しい歌声を聞けるならたとえ命を失っても構わないと、本気で思っていた。しかし、月光に照らされた夜鳴鶯を見た時、それが間違いであることを知る。彼女は黒くつぶらな瞳に多くの死を見た悲しみを湛えていた。歌ってくれとは言えなかった。

設定:【夜鳴鶯】 夜に鳴く鶯。鳴き声はとても美しいが聞くと死を呼ぶとされている。

【798】 いい人

僕は、そんなにいい人じゃないんですよ。人当たりがいいのは商売柄でしてね。普段は外面をばらすことはないんですが、特別に教えてあげます。あんまりまっすぐに僕を信じるから気の毒になって。すみませんね。胸のナイフは偽物じゃないんですよ。命、いただきますね。

書き出しをお借りして。


ご訪問、拍手ありがとうございます。
もふもふは正義ですwwww
「我は「もふもふ」を欲する!」


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【795】 呟き

いくつもの呟きがぱらんぱらんと降ってくる。僕はいろんな色のガラス玉みたいなそれを、ひとつひとつ拾い集める。捨てたつもりの呟きも、気づいてほしい呟きも、すべて。必要以上につつくと壊れそうで、眺めるばかりでごめんね。いつか投げ返したら、君は拾ってくれるかな。


【796】 別れ

もう君の心はここにはない。夢見るような瞳で空の向こうを眺めてる。「お願いがあるの」歌うように優しい君の囁きが聞こえた。「私を忘れて」遠くへいってしまう君の最後の言葉に頷いてあげたかった。でもごめんね。それだけはどうしてもできない。涙が溢れた。

お題:「お願いがあるの」を入れた短い文章



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HN:
宵月楼 店主
性別:
非公開
自己紹介:
オリジナルの短い文章を書いています。アニメ、ゲーム、小説、マンガ、音楽、手作り、すべてそれなりに広く浅く趣味の範囲で。
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